純資産価額の資産別評価とは何でしょうか?

評価会社が持っているそれぞれの財産を評価する場合、「相続税評価額」に基づいて評価するのが一般的です。しかし、例外的に、資産に課税時期前の3年以内に取得や新築の建物、土地が含まれている場合、「通常の取引価額」に相当する金額によって評価することになります。

(1) 資産の評価
課税時期に評価会社の資産について、財産評価基本通達で定められている方法で評価、その額を「相続税評価額」とします。

【主な資産の例および評価の概要について】
預貯金:課税時期の預金残高もしくは解約する場合の期経過利子の金額(源泉徴収を差し引いた後)の合計額から評価します。ただし、定期預金等以外の預貯金に関しては利子の額が少額な場合預金高に基づいて評価します。
営業債権:帳簿価額から回収不能な額については控除、受取手形の場合は支払期限まで6ヶ月以上ある場合、割引料の相当額を控除します。
有価証券:上場株式の場合、課税時期の最終価額、課税時期の属する月の3ヶ月前までさかのぼり、毎月の最終価額の月平均額を算出、その中で最も低い価額で評価します。取引相場にない株式の場合は同族株主等の場合「原則的評価方式」を用いて、それ以外の場合、「配当還元方式」によって評価します。
棚卸資産:財産評価基本通達において、棚卸資産は種類によって評価方法が決定されます。不良在庫以外は、実務上、帳簿価額と同額として計算するのが一般的です。
貸付金等:貸付金、未収入金、仮払金など、返済しなければならない金額で評価して、利息についても既経過利息との合計額で評価します。
建物:建物やそれと一体となった設備は、固定資産税評価額から評価します。また、賃貸による貸家の場合、その制限部分を考慮します。
その他の減価償却資産:財産評価基本通達では、再調達価額を計算方式の基本とするように定められています。しかし、税法限度額によって減価償却を実施しているのであれば、実務上は帳簿価格と同額にすることが一般的です。
土地等:財産評価基本通達において、土地(宅地、田、畑、原野、牧場、山林、池沼、鉱泉地、雑種地)を地目別に分けて評価すべきとされています。例えば、市街地の宅地は路線化方式、それ以外の宅地は倍率方式で評価すべきです。
ゴルフ会員権:株式形態のものか、取引相場があるかどうかなど、評価方式が決定されています。
帳簿価額はなくても評価対象となる資産:例えば未収の生命保険金が挙げられます。会社の代表者が被保険者となり、受取人が会社という生命保険契約を結んでいる場合、代表者が死亡した場合、保険金収入が見込まれるのであれば、死亡保険金相当額によって評価します。
評価対象にならない資産:例えば、前払い費用、創立日、新株発行費等の繰延資産や繰延税金資産は評価に含めることはありません。

【例外的規定の代表例(過度な節税対策の防止)】
課税時期以前3年以内に取得した土地等または建物等:該当する資産の評価方法は、課税時期における「通常の取引価額」です。
評価会社が有する取引相場のない株式:評価会社が所有する取引相場にない株式は純資産額で評価するのですが、含み益に対する法人税等相当額を控除できません。

(2)負債の評価
基本的に、負債額は対外的に金額が確定しているものです。そのため、負債に対して評価する必要はありません。したがって、負債の大半は相続税評価額と帳簿価額が同額になるのです。

[留意点]
引当金等:貸倒引当金、賞与引当金、退職給付引当金、納税引当金及びその他引当金、準備資金、繰延税金負債は、負債に含めないこととします。ただし、経過措置適用後、退職給付引当金は負債に含めます。
未納の法人税等:直前期末の決算を基準に評価する場合、未納の法人税等は負債に含めます。
未納の固定資産税及び都市計画税:課税時期以前の賦課期日(1月1日)があった固定資産税、都市計画税の中で未払いのものは負債として計算します。
剰余金の配当等:直前期末から株主総会までの間で課税時期がある場合、未払配当金は負債として計上しません。ただし、株主総会後に課税時期がある時は負債として計上します。
未払の退職手当金等:被相続人が死亡した時、会社が支給すると確定していた退職手当金や功労金、その他にもこれに準ずる給与については負債として原則的に含まれます。
被相続人に係る社葬費用:評価会社が被相続人の社葬費用を負担している時は、純資産価額の計算において社葬も負債に計上して良いという法律になっています。ただし、遺族が負担すべきものは除きます。
その他未納租税公課、未払利息等の簿外負債:借入金の未払利息や未払の租税公課など、決算書に計上されない債務も負債として計上します。

純資産価額の計算方法について教えて下さい

純資産価額方式は、自社株の価値を会社の総資産から負債を控除することで測る方法です。つまり、会社の清算価値による評価方法を言います。

(1)純資産価額の計算方法
純資産価額方式は、会社の資産と負債を相続税評価額にすることで、株価を計算する方法のことです。

純資産(帳簿価格)+{含み益×(1-45%)}÷発行済み株式数

※含み益とは、相続税評価額による純資産価額から帳簿価額による純資産価額を差し引いて計算することになります。また、含み損であれば純資産価額から含み損の金額を減額します。
※45%の根拠は会社が解散した場合の法人税等の税率に基づいています。

類似業種の業種判定方法を教えてください

類似業種比準価額を行うための前提条件として、評価の対象となる会社の業種がどのような業種に該当するかを判定しなければなりません。このルールは国税庁長官が定めているものですが、一定の基準に従って業種を判定することになります。

(1) 複数の業種を兼業している場合
まず、主要な業種としての評価を行います。主要な業種基準は、売上額が全体の割合の中で50%を越えるものを指します。

(2)類似業種の株価を判定する
類似業種を判定したら、次は株価の判定を行います。国税庁が公表する「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」に基づいて株価の評価をします。該当する業種目の分類が「小分類」「中分類」「大分類」によって区分されています。なお、通常は小分類に振り分けられるのですが、納税者の選択によっては中分類の業種目を類似業種とすることは可能です。
また、業種目が小分類に区分されていないこともあります。この場合は中分類に属することになるのですが、納税者の選択によっては大分類の業種目を類似業種としても良いことになっています。

例えば、主要な業種目が「不動産賃貸業」であれば、類似業種比準価額は「102(大分類) 不動産賃貸業(中分類)、管理業」となります。しかし、不動産賃貸業という面から、不動産の別の業種目の分類である「100 不動産業 物品賃貸業」を選択することもできます。
このように、類似業種の株価や比準要素(配当・利益・純資産)に基づいて計算された金額から、より節税効果が高くなる方の業種目を選択することは可能です。

(3)主な業種(取引金額割合が50%を越える業種)が無い場合
この場合は別の方法によって判定することになります。

類似業種比準価額の計算方式について教えてください

類似業種比準価額方式では評価会社の「配当」「利益」「純資産」の要素を元に評価します。計算される株価は、上場会社の株価に比準して計算します。

(1) 類似業種比準価額の計算方式
類似業種比準価額方式は、類似する業種の上場会社の株価に基づいて、自社株の評価額を計算する評価方法のことを指します。株価の価格を決定する要素には、配当、利益、純資産価額が基本となっています。
本来であれば、他にも事業内容や将来性、経営者の能力など数値化することが難しいデータも含めて算出すべきなのですが、こういった要素まで含めるのは現実的ではありません。したがって、ここでは、上述の3つの要素に基づいて検証します。

(2) 類似業種比準価額のポイント
1.「配当」「利益」「純資産」の3つの要素が基準
批准する類似業種に比べて、自社におけるこれらの要素が高い場合、当然自社株の評価額も高くなります。業種目については、評価会社の主な業種に応じて判定しますが、複数の業種を含めて兼業している場合は、業種の中でも単独で売上高が50%を越える業種から選ぶことになります。

2.原則として直前2回の期の決算数値から計算する
決算期を越えると比準要素が変わります。つまり、決算での業績が株価に直接影響することになります。

3.利益は3倍にして加重する
株式の価値を決める非常に大きな要素は利益です。つまり、利益は株価に大きな影響を与える為、利益については3倍にして加重します。

原則的評価方式によってどのように評価するのですか

(1)原則的評価方式を用いた評価の流れ
原則的評価方式における評価方法は下記の流れによって行われます。

1.会社規模を判定
2.特定会社の判定
3.特定会社に該当しない場合は「類似業種比準価額方式」「純資産価額方式」あるいは、両方の折衷案を採用します。特定会社に該当する場合は純資産価額方式を用いることになります。

・会社規模の判定
会社規模を判定する時、「従業員数」「総資産価額(帳簿価額)」「売上高」に基づいて氷解します。この判定基準より大会社、中会社、小会社に分類します。

会社規模を判定する時、従業員が100人以上であれば大会社として分類されます。100人以下の場合、従業員数や総資産価額に基づいて判定します。このどちらかの小さい方と、売上高に基づいて判定、その中で大きい方の会社規模を評価します。

例えば、業種が小売業のA社を例に挙げてみましょう。従業員数49人、総資産額9億円、売上高が15億円の場合、従業員の数は100人未満ですから、総資産価額や従業員数による判定を行います。小売業の場合、総資産額は7億円以上10億円未満です。従業員数は30人超50人以下に該当します。
総資産価額では中会社の大の会社規模に区分されますが、従業員が中会社の中の会社規模です。したがって、一旦こちらの会社規模を採用します。
次に、売上高をみると、12億円以上20億円未満の会社規模に当たります。これは中会社の大の会社規模に該当します。つまり、A社の区分は中会社の大の会社規模となります。

・特定会社の判定
特定会社とは、比準要素数1の会社、株式保有特定会社・土地保有特定会社、開業から3年未満の会社や直前期末を元にして、これらの要素が全くない会社、あるいは開業前、休業中、精算中の会社を指します。
特定会社に該当する場合、会社規模とは関係なく、純資産価額方式によって評価します。

・株式の評価方法を決定
特定会社ではない場合、会社規模に基づいて評価方式を決定します。大会社の場合は類似業種比準価額で評価、中会社、小会社では、類似業種比準価額、純資産価額の折衷方式によって評価することになります。会社規模に応じて、どのように折衷するのかという割合は異なります。なお、評価額を純資産価額と比較して、低い方の価額に基づいて評価しても良いのです。

自社株評価とは?

(1) 同族間での相続、贈与に適用される評価方法
会社を支配する同族株主が相続あるいは贈与によって取得する株式に関しては、原則的評価方式が適用されることになります。この時、以下の方式によって評価します。

純資産価額方式:会社の資産の額から負債の額を控除した純資産価額を自社株の価値として評価する方法です。
類似業種比準価額方式:理事事業を営む上場会社の株価をベースに、配当・利益・純資産の3要素を比べることで自社株を評価する方法です。

これが原則的評価方式です。片方、もしくは、この両方を合わせた折衷方式によって評価することになります。

(2)少数株主に適用される評価方式
少数株主もしくは同族ではない株主は、基本的に配当目的で株式を保有しています。つまり、支配権を行使することが目的ではないため、例外的評価方式の「配当還元方式」を用いて株価を評価します。

配当還元方式:配当金額を一定利率(10%)で還元した価額を自社株の価値とする方法

(3)具体例

<原則的評価方式>
純資産価額 1株10,000円
類似業種比準価額 1株3,000円

<例外的評価方式>
配当還元価額 1株500円

この場合、贈与や売買時の株価がどのようになるのでしょうか。

1.社長から後継者(子ども)へ贈与する場合
社長が後継者(子ども)に自社株を贈与する時、同族に対しての贈与となります。したがって、原則的評価方式である「純資産価額方式」である1株10,000円、「類似業種比準価額方式」による1株3,000円を用いて計算します。

2.会長である兄の持っている株式を社長である弟が買い取る場合
個の場合も同族間取引です。したがって、原則的評価方式が適用されます。

3.社長の株式を従業員持株会へ
社長が持っていた株式を従業員、もしくは、従業員持株会に売却する場合、例外的評価方式の「配当還元方式」を適用し、1株500円として評価します。
一方、従業員の持っている株式を社長が買い取る時は、原則的評価方式を用いて評価した金額となります。

後継者へどのように引き継ぐか

子どもなど、後継者が代表になるとき、「代表の座を移転する」「自社株など所有権を移転する」この方法があります。自社株をはじめとした所有権をどのように移すかという問題については(1)生前贈与(2)親子間売買(3)相続と3つの方法があります。
なお、どのようにして移すかという方法で税金が変わってきますから、後継者を決めた時点で早めに手を打つ必要があります。

(1)代表の座を移転する
1.いきなり全ての権限を移さないこと
「代表の座を移転する」つまり、代表取締役としての地位が後継者に移るということです。多くの新しい経営者は、「新しいことをやりたい」このような意欲を持っているものです。自分の独自色を出そうとする気持ちは良いのですが、急に全権を移譲してしまうと、社内外に混乱が生まれるリスクが高まります。

2.先代社長と後継者が併走する期間を用意する
社内外で生じると予測される混乱を避ける為、先代の社長と後継者が並行して業務に当たる期間があると社員も安心して働けます。また、取引先の方も継続して取引を続ける上で安心できます。ちょっとしたトラブルがあっても、先代の社長がフォローできるからです。
できるだけ早いうちに事業承継を行うべき理由は、先代が活発に活動できる年代のうちに後継者を代表に据えることができるからです。また、認知症の問題などもありますが、若いうちに後継者に交代するメリットは、重要なノウハウなどを代表者から後継者に移すことで、業務をストップさせないようにできるという点です。

(2)自社株などの移転
1.税金のことをよく理解しよう
事業承継の為には、税金のしくみについても十分理解しておく必要があります。優良な非上場会社は、株式評価額にすると意外と高額になっていることがあります。つまり、相続税が高くなることも予想されており、最大で50%の税率が掛けられてしまう可能性もあります。
昔から、「相続が3代続くと財産が無くなる」と言われている日本の税制ですが、やはり、相続税が高いことは仕方ありません。しかし、早めに対策を打てば、多くの財産を残すことも不可能ではありません。相続税が原因で会社が潰れないように対策を打ちましょう。
まず、後継者には自社株や事業用資産の所有権を移転する方法があります。主な方法は以下の3つです。

(イ) 生前贈与:10~50%の贈与税が発生する
(ロ) 親子間売買:譲渡所得税や住民税がかかる(原則20%の税率)
(ハ) 相続:10~50%の相続税が発生する

2.自社株をどのように移すか

(イ)生前贈与
贈与を行う時に注意しなければならないポイントは、「相続税の負担」「贈与税の負担」のバランスを考えることにあります。生前贈与も「暦年課税制度」「相続時精算課税制度」という2種類の方法があります。
事業承継を考えた場合、将来の値上がりが考えられる自社株を贈与するのであれば、相続時精算課税制度を活用することで、節税効果が高まるケースもあります。
生前贈与の特徴ですが、特別受益として遺留分減殺請求の対象になります。つまり、後継者以外の子どもに対して、どのように他の財産を当てるのかを考えなければなりません。

メリット:後継者は贈与税の資金調達のみで良い
デメリット:生前贈与は特別受益として遺留分減殺請求の対象になる

(ロ)親子間売買
適正な価額で取引がされている親子間売買の場合、生前贈与のように遺留分減殺請求の対象にはなりません。つまり、親族同士の財産争いに関するトラブルは避けられるでしょう。
ただし、親子間であっても売買取引になります。つまり、購入資金が必要だということです。親子間での売買の場合、相続税評価額に基づいて売買が行われることが一般的ですが、もし後継者の方で相続税評価額相当の資金が無い場合、資金調達が必要になります。
また、売却するオーナーについても、取得価額よりも売却価額が大きくなる場合、売却時の利益に対して、20%の譲渡税(15%の所得税および5%の住民税)が発生することも考慮しておきましょう。

メリット:適正価額の売買については遺留分減殺請求の対象にならない
デメリット:後継者が株式購入に必要な資金を調達する必要がある

(ハ)相続
相続で後継者が取得する場合、遺言書などを利用して後継者に対して自社株、事業用資産の相続をさせる旨を決定する必要があります。そうしなければ、遺産分割協議が必要になってしまい、後継者以外の相続人も事業に関する資産を取得する権利が発生する為です。したがって、遺留分を考慮しながら遺言書を作成すべきでしょう。
なお、相続税の税率に関しては最高で50%の超過累進税率になります。自身の相続税を理解しながら、上述した3つの方法から節税効果が高い方法を選択しましょう。

メリット:遺産総額が相続制の基礎控除を下回っている場合は税負担が無い
デメリット:遺言が無い場合、遺産分割協議が成立するまでは株主が決まらず、株主総会の運営に支障があるリスクがある。さらに、経営に関与しない相続人も資産を取得する権利がある。また、承継直前の業績によっては相続税の負担が重くなる可能性がある

3.原則は自社株の評価額が低い時期に移すこと
自社株の評価額は、会社の業績や過去の利益の蓄積によって大きく変わります。つまり、移転時期によって評価額及びそれに付随する相続税が全く異なるため、評価額が低い時期に移すべきでしょう。
例えば、オーナーに対して退職金を支給するのであれば、それだけ会社の利益は圧迫されることが考えられます。つまり、通常株価が下がるため、自社株を後継者に移すという意味では非常に良い機会であると言えます。

4.納税資金を考えた上での対策
オーナーにもしもがあった時のことを考えなければなりません。この時、原則として現金で一括納税しなければならない相続税を支払えるかどうかという問題があります。自社株は基本的に換金性が無いため、相続税の納税資金を考えた時、アテにすることはできません。
納税資金が不足すると考えられる場合、会社で自社株を買い取る方法、物納、延納など、様々な方法で相続税を支払わなければなりません。

(3)オーナーと後継者の事業承継に関するギャップの解消
誰でも、事業承継を円滑に行いたいと思っているものです。しかし、オーナーと後継者は些細なことで行き違いが生じてしまうものです。ここでギャップが生じてしまうと承継が円滑に行われませんから、解消する為の方法について検討する必要があります。

1.オーナーと後継者の事業承継に関する視点

【オーナー側の意見】
・まだまだ後継者に自分と同じレベルの仕事を任せるのは不安
・自分と同じ苦労をしてから意見を言うべき

【後継者側の意見】
・他の会社でサラリーマンとして働いている為、この会社で社長になりたくない
・社長と同じように経営できるか不安
・自分ならもっとできることがある
・経営に関して先代が口うるさそうだ

2.ギャップを埋める為に必要なことは?

【オーナーがすべき行動】
・スムーズに事業承継を行える環境を作る
社内で未解決となっている問題は、できる限り全て解決しましょう。特に、借金などの情報は全て共有する必要があります
・親族争いの火種を全て消しておく
・口出しはしないようにしつつ、アドバイスの必要があれば助言する

【後継者側がすべき行動】
・独自色を出すことばかりを考えず、先代のものを発展させるつもりで作業を進める
・1人で考え過ぎず、重要な問題は先代と相談しながら進める

オーナーと後継者がお互いに自分の役割を認識して尊重することが最も大切なのです。

後継者を育てる方法を教えてください

後継者を決定した場合、その後継者の教育を行う必要があります。その中で経営者としての能力を鍛えるとともに自覚を築き上げさせる必要があります。後継者の教育に必要なポイントは以下の通りです。

(1)後継者を社内で育てるか、あるいは、社外で育てるか

1.社内で育てる
身内を社内で育てて後継者にするというのは非常に難しいというのが一般的な考え方です。なぜなら、自分の親族だからという理由で厳しく当たってしまったり、反対に甘やかし過ぎてしまったりするからです。
また、従業員の方でも将来社長になることが決定しているような社員に対して、厳しく教育するというのは非常に難しいでしょう。つまり、社内で後継者を育てるということは基本的に会社の混乱を招いてしまうため、避けるべきと言えるでしょう。
ただし、社外では習得できないような知識やノウハウというものもあります。その会社ならではのルールなどです。これらは、社長と共に業務を行うことでマネジメント能力を身に付けられる部分でもあります。

2.社外で育てる

社外で後継者を育成する場合、自社と同程度の規模を誇る会社で、なおかつ、厳しく指導をしてくれる会社だと良いでしょう。大企業に入社しても、後継者として社長に就任する会社が中小企業だとすれば、個人に求められる能力や役割が全く異なってくるためです。もちろん、後継者にとってみても同規模の会社で働くことで見えてくる部分は多いです。
ただし、取引先や関連会社などに就職するというのは気をつけましょう。後継者となるべき人材が育たなくなることも多いのです。

3.社長の背中を見せる
社長業は楽しい面もあれば辛い面もあります。もちろん、社長ならではのやりがいも感じられる仕事です。後継者となるであろう人材に対して、小さいうちから教育しておくことも非常に重要です。

(2)後継者に必要な資質
1.カリスマ性
経営者として明確な経営理念を持つとともに、言葉で伝えられる能力を持っていることが大切です。

2.マネジメント能力
従業員のマネジメントができなければ、社長になることはできません。社長の仕事は自分自身が動くことではありません。どうやったら周囲が効率よく動けるかを考えることが仕事です。もちろん、自分が楽をすることではないのです。

3.リスクマネジメント
経営者は危機を察知する能力が無ければ務まりません。何かが起きる前に対策を打つ能力、危険が起きてから迅速かつ適切な対応をする能力が求められます。

4.交渉力
外部に対する営業交渉はもちろん、社長は社内での交渉も必要です。様々な場面で交渉をできるコミュニケーションスキルとともに、人間関係を円滑に行う能力が欠かせません。

(3)オーナーに求められること
1.後継者は早めに選定した方が良い
経営者に求められるスキルはビジネススキルだけではありません。つまり、仕入れや製造、販売などの面ばかりでなく、社内のことも理解を求められます。人事労務や税務会計など社員や帳簿を管理することも、社長が持っていなければならないスキルに含まれます。
会社組織がどのように動いているか把握する為に、後継者には様々な部署を経験させる必要があります。だからこそ、会社の後継者教育が重要なのです。
後継者決定を怠ったり先延ばしにしたりした場合、後継者争いで派閥ができてしまうことがあります。こうなると、会社組織はもはやおしまいと言っても良いでしょう。会社の業績が停滞、降下してしまうのです。

2.後継者にはメンター(教育係)をつける
後継者を育成する上でメンターの存在は欠かせません。仕事に対する考え方、経営者としての視点を身につけさせることが重要ですから、後継者を教育する立場の人材を誰にするかが課題となります。
基本的に、後継者のメンターは幹部社員にすべきです。早い時期に良好な人間関係を形成することで、その後の事業がスムーズに進むからです。

(4)後継者にできること
1.人間力を磨く
後継者は高学歴な人材が多いことでしょう。現在のオーナーとしては、やはり、自分の後釜として事業を継続、さらに拡大させることを望んでいるためです。したがって、多くの後継者は学歴に比例して一般教養が身についていると思いますが、経営には教養だけではなく人間力が必要です。
人間力とは非常に多岐にわたります。思いやりや行動力、誠実な態度、忍耐力と言った性格的な要素から、統率力や決断力、創造力、さらには礼儀作法など、業務に直接的あるいは間接的に関係してくるスキルなども含まれます。
基本的に、数値化できないものが人間力です。しかし、多くの人はこういった要素にこそ魅力を感じます。つまり、人間力とはその人の魅力のことだと言っても良いでしょう。

2.初代オーナーや従業員の苦労を知る
会社というものは長年経営していると、「あることが当たり前」というような認識になってしまいます。しかし、初代オーナーが事業を始めた時、オーナーや開業当初の従業員は非常に苦労していたであろうことは容易に想像できます。したがって、彼らに対して尊敬する気持ちを持つことは大切なのです。

3.経営者は孤独、同じ立場の仲間が居ることを知る
初代のオーナーはもちろんのことですが、二代目の経営者という立場も難しいものです。同様の立場に立っている経営者の仲間を作り、お互いに社長の心得を学べる環境を作りましょう。問題が解決できない場合でも、同じ悩みを抱えている仲間が居ることを知ると、孤独感を和らげてくれるでしょう。例えば、外部セミナーがあれば積極的に参加することで経営者の仲間に出会えるはずです。

誰が事業を引き継ぐべきか

次世代の経営者としてふさわしい後継者を決める場合、会社の内外を問わずに誰が経営者として優れているのかを判断しなければなりません。事業の承継パターンとして考えられるものは以下のケースが挙げられます。

(1)子どもや親族への警鐘
基本的にオーナーが後継者候補として考えるのは親族ではないでしょうか。特に子どもが中心になるというのが一般的な流れになるでしょう。しかし、親族が引き継ぐ場合には考慮しなければならない点があります。

1.本人が本気で引き継ぐ意思があるのか
2.経営者として適切な人材であるか

特に、自分の子どもの場合、本当に引き継げる人物かどうかを確認しましょう。もし、本人にその意思や能力が無い場合は他の親族を後継者として検討すべきです。
また、複数の子どもが居る場合、後継者以外の子どもには自社株や事業用資産以外の財産を承継させることで、遺留分に配慮しなければなりません。また、後継者が絞りきれない場合は会社を分社化してしまうのも選択肢として考えられます。

(2)従業員や親族外承継(MBO・LBO)
適任とされる親族が居ない場合、会社の状況に詳しく、なおかつ、信頼できる人材を経営者として承継させるという手段も考えられます。今まで、一緒に会社を運営してきた存在ですから、業務の引き継ぎもスムーズです。
この場合、役員や従業員、さらには取引先などの利害関係者から納得してもらえるのかという点と、MBOやLBOという形で会社の所有権を譲ることになるため、経営権である自社株を引き受けられるだけの資力があるのかという点が課題となります。

MBO:Management Buyout 経営陣による買収
LBO:Leveraged Buyout 買収される会社の資産などを担保に調達した資金から買収を行う

(3)第三者への承継(M&A)
親族や従業員に適切な後継者がいない場合、事業を簡単に廃止していいのかという問題点が上がります。しかし、従業員の雇用維持や取引先との関係から、継続して事業を運営すべきと考えられます。
そこで、M&A(合併と買収)によって、会社を外部に売却する方法もあります。オーナーは会社経営を離れることになりますし、売却資金があればその後の生活に関しても非常に自由なものになります。この時、買い手が見つかるのか、折り合いがつくのか、従業員は雇用され続けるのかと言った問題があります。
株価・事業に関して事前に評価を行い、自社の価値を把握しておきましょう

事業承継とはなんですか

事業承継に必要なポイントは以下の5つです。

(1)後継者を選ぶ
「誰が会社を引き継ぐべきなのか」
まずは、後継者が決まらなければ事業承継は始まりません。親族が承継するべきか、あるいは、血縁関係のない従業員でも会社を知っている人が承継するべきかを考えましょう。他にも、第三者へM&Aを検討して意思決定を行っていきましょう。

(2)経営権対策
事業を引き継いだ後継者が安定して経営を実践する為に、後継者へと自社株や事業用資産を集中して承継させなければなりません。
自社株は特に重要な要素ですが、会社が意思決定を行う時、株主総会での議決権にも大きく影響します。もし、後継者以外の子どもが居る場合は遺留分なども考えなければなりませんが、事業承継を行う上では後継者に集中的に権利を与えることが重要です。

(3)株価・相続税
自社株の評価額が高い場合、多額の相続税が後継者に対して発生することになります。もし、相続することになった時のことを考えて、自社株や事業用資産への相続税をどこまで軽減できるかが課題となります。

(4)納税資金
中小企業オーナーの場合、財産構成の大半を占めるのが自社株や事業用資産ということになります。これらの財産の問題点は換金性がないことです。したがって、相続税の納税資金を確保する時に苦労しますから、予め考慮しておく必要があります。オーナーが金融資産を所有している場合でも、自社株、事業用資産を後継者に集中させる場合は、後継者以外の子どもに対しても配慮が必要です。つまり、多額の資金が必要なケースが多々あるのです。

(5)争族対策
子どもの一人を後継者として選んだ場合、自社株をはじめとした財産は後継者に集中することになります。しかし、後継者以外の子どもの遺留分を侵害しないように配慮する必要がありますから、相続が発生した後、親族で財産争いが起こらないようにしなければなりません。