後継者へどのように引き継ぐか

子どもなど、後継者が代表になるとき、「代表の座を移転する」「自社株など所有権を移転する」この方法があります。自社株をはじめとした所有権をどのように移すかという問題については(1)生前贈与(2)親子間売買(3)相続と3つの方法があります。
なお、どのようにして移すかという方法で税金が変わってきますから、後継者を決めた時点で早めに手を打つ必要があります。

(1)代表の座を移転する
1.いきなり全ての権限を移さないこと
「代表の座を移転する」つまり、代表取締役としての地位が後継者に移るということです。多くの新しい経営者は、「新しいことをやりたい」このような意欲を持っているものです。自分の独自色を出そうとする気持ちは良いのですが、急に全権を移譲してしまうと、社内外に混乱が生まれるリスクが高まります。

2.先代社長と後継者が併走する期間を用意する
社内外で生じると予測される混乱を避ける為、先代の社長と後継者が並行して業務に当たる期間があると社員も安心して働けます。また、取引先の方も継続して取引を続ける上で安心できます。ちょっとしたトラブルがあっても、先代の社長がフォローできるからです。
できるだけ早いうちに事業承継を行うべき理由は、先代が活発に活動できる年代のうちに後継者を代表に据えることができるからです。また、認知症の問題などもありますが、若いうちに後継者に交代するメリットは、重要なノウハウなどを代表者から後継者に移すことで、業務をストップさせないようにできるという点です。

(2)自社株などの移転
1.税金のことをよく理解しよう
事業承継の為には、税金のしくみについても十分理解しておく必要があります。優良な非上場会社は、株式評価額にすると意外と高額になっていることがあります。つまり、相続税が高くなることも予想されており、最大で50%の税率が掛けられてしまう可能性もあります。
昔から、「相続が3代続くと財産が無くなる」と言われている日本の税制ですが、やはり、相続税が高いことは仕方ありません。しかし、早めに対策を打てば、多くの財産を残すことも不可能ではありません。相続税が原因で会社が潰れないように対策を打ちましょう。
まず、後継者には自社株や事業用資産の所有権を移転する方法があります。主な方法は以下の3つです。

(イ) 生前贈与:10~50%の贈与税が発生する
(ロ) 親子間売買:譲渡所得税や住民税がかかる(原則20%の税率)
(ハ) 相続:10~50%の相続税が発生する

2.自社株をどのように移すか

(イ)生前贈与
贈与を行う時に注意しなければならないポイントは、「相続税の負担」「贈与税の負担」のバランスを考えることにあります。生前贈与も「暦年課税制度」「相続時精算課税制度」という2種類の方法があります。
事業承継を考えた場合、将来の値上がりが考えられる自社株を贈与するのであれば、相続時精算課税制度を活用することで、節税効果が高まるケースもあります。
生前贈与の特徴ですが、特別受益として遺留分減殺請求の対象になります。つまり、後継者以外の子どもに対して、どのように他の財産を当てるのかを考えなければなりません。

メリット:後継者は贈与税の資金調達のみで良い
デメリット:生前贈与は特別受益として遺留分減殺請求の対象になる

(ロ)親子間売買
適正な価額で取引がされている親子間売買の場合、生前贈与のように遺留分減殺請求の対象にはなりません。つまり、親族同士の財産争いに関するトラブルは避けられるでしょう。
ただし、親子間であっても売買取引になります。つまり、購入資金が必要だということです。親子間での売買の場合、相続税評価額に基づいて売買が行われることが一般的ですが、もし後継者の方で相続税評価額相当の資金が無い場合、資金調達が必要になります。
また、売却するオーナーについても、取得価額よりも売却価額が大きくなる場合、売却時の利益に対して、20%の譲渡税(15%の所得税および5%の住民税)が発生することも考慮しておきましょう。

メリット:適正価額の売買については遺留分減殺請求の対象にならない
デメリット:後継者が株式購入に必要な資金を調達する必要がある

(ハ)相続
相続で後継者が取得する場合、遺言書などを利用して後継者に対して自社株、事業用資産の相続をさせる旨を決定する必要があります。そうしなければ、遺産分割協議が必要になってしまい、後継者以外の相続人も事業に関する資産を取得する権利が発生する為です。したがって、遺留分を考慮しながら遺言書を作成すべきでしょう。
なお、相続税の税率に関しては最高で50%の超過累進税率になります。自身の相続税を理解しながら、上述した3つの方法から節税効果が高い方法を選択しましょう。

メリット:遺産総額が相続制の基礎控除を下回っている場合は税負担が無い
デメリット:遺言が無い場合、遺産分割協議が成立するまでは株主が決まらず、株主総会の運営に支障があるリスクがある。さらに、経営に関与しない相続人も資産を取得する権利がある。また、承継直前の業績によっては相続税の負担が重くなる可能性がある

3.原則は自社株の評価額が低い時期に移すこと
自社株の評価額は、会社の業績や過去の利益の蓄積によって大きく変わります。つまり、移転時期によって評価額及びそれに付随する相続税が全く異なるため、評価額が低い時期に移すべきでしょう。
例えば、オーナーに対して退職金を支給するのであれば、それだけ会社の利益は圧迫されることが考えられます。つまり、通常株価が下がるため、自社株を後継者に移すという意味では非常に良い機会であると言えます。

4.納税資金を考えた上での対策
オーナーにもしもがあった時のことを考えなければなりません。この時、原則として現金で一括納税しなければならない相続税を支払えるかどうかという問題があります。自社株は基本的に換金性が無いため、相続税の納税資金を考えた時、アテにすることはできません。
納税資金が不足すると考えられる場合、会社で自社株を買い取る方法、物納、延納など、様々な方法で相続税を支払わなければなりません。

(3)オーナーと後継者の事業承継に関するギャップの解消
誰でも、事業承継を円滑に行いたいと思っているものです。しかし、オーナーと後継者は些細なことで行き違いが生じてしまうものです。ここでギャップが生じてしまうと承継が円滑に行われませんから、解消する為の方法について検討する必要があります。

1.オーナーと後継者の事業承継に関する視点

【オーナー側の意見】
・まだまだ後継者に自分と同じレベルの仕事を任せるのは不安
・自分と同じ苦労をしてから意見を言うべき

【後継者側の意見】
・他の会社でサラリーマンとして働いている為、この会社で社長になりたくない
・社長と同じように経営できるか不安
・自分ならもっとできることがある
・経営に関して先代が口うるさそうだ

2.ギャップを埋める為に必要なことは?

【オーナーがすべき行動】
・スムーズに事業承継を行える環境を作る
社内で未解決となっている問題は、できる限り全て解決しましょう。特に、借金などの情報は全て共有する必要があります
・親族争いの火種を全て消しておく
・口出しはしないようにしつつ、アドバイスの必要があれば助言する

【後継者側がすべき行動】
・独自色を出すことばかりを考えず、先代のものを発展させるつもりで作業を進める
・1人で考え過ぎず、重要な問題は先代と相談しながら進める

オーナーと後継者がお互いに自分の役割を認識して尊重することが最も大切なのです。